4/27更新。改変終了最後まで読めます。

最後までのストーリーを とりあえず読める、といった状態ですが
とりあえず「シナリオが完成」しました。
これからは、未来らしいあじつけと、イメージボードの数が増えていきいます。

テルミーザトゥルー
スピリットバイアス 上巻

マンガ台本+イメージボード


Tell me the true love. Spirit bias.
イラスト & ストーリー、Tetsuya Morisawa

1987年からあたためました。現在もデータ作成しながらの、私の ささやかな発表会場です。

大切な私の完全フィクションのオリジナル作品です。 先に本編のデータを作成しないでください。
映像にしたいときは直接私に連絡ください。私もいつか作ります。






🔳左から、主要キャラクターの名前と説明

ローザ…地下研究所 支配人(左の人物)
クレス…家庭用万能ロボット試作品
渡瀬綾乃17…優樹の妹、大型バイク乗り、通信制高校2年
渡瀬優樹19…(中央の人物)主人公、工業専門校を辞めたばかり、DTMな人、綾乃の保護者
ウィラ…岩崎のボディガード、最高顧問つき秘書、岩崎邸ホームヘルパー
岩崎慎…NESPHON Inc. 最高顧問 工学博士(アクティブフレイム、スピリットバイアス)
渡瀬直樹…脳科学者(右の人物)



🔳主要メカの名前と説明

アーク・フレイム 900R 改 = ソードバイアス …主人公、優樹のバイク。(白い機体)
           600年後の2673年の世界では反重力バイクを「バイアス」と呼ぶ。
           10年前に設計された機体に対して大改造を施したもの。 性能だけなら現代のバイクと遜色ない。
ブラック・フレイム 1300 = デモンバイアス …妹、綾乃のバイク。(黒い機体)
           改造前のソードバイアスよりも大きい、最新のグランドフォートレス。
           父から譲られた、兄妹にとって大切な形見。







第零章 「 プロローグ (序章) 」



2673年 日本…冬。



~ 岩崎邸 TV電話 ~


「渡瀬が… 消えた?!」





ガウンをまとった、年齢 70歳半ばの男は言った。
「そうか… 渡瀬は愛する夜恵華の所に行ったか…」



午後11時をまわった闇の中 モニターに
一人の若々しい青年が映し出されていた



老人は、落ち着いた口調でたずねる…
「ご両親がいなくなって これから一人で大丈夫かい?」
「いえ… 妹がいますから…」


(…強い子だ…)

岩崎は、鎮静薬ぬきでも消去法で答えが出せる男だった。
そして瞬時に一巡。
さすが巨大企業の頭脳だ。



「2人じゃ何かと大変だろう…」
「よかったら 私と一緒に住まないか?」
「私はひとり身でね、ちょうど寂しがってた所なんだよ…」







第一章 「全力家族は好きですか?」


2673年 日本…春。

~ 岩崎邸の前にて ~

「 ピンポーン 」



「只今、岩崎は外出しております」
「御用の方は、後日連絡を取ってお越しください」



「ちょっ、ちょっとお兄ちゃん?どーゆー事よこれ?」
「そーいわれたってさぁ、確か今日だったと思うけどなぁ?」
「岩崎さん戻るまで待つのォ?」
「みたいだねぇ」

「尚、5分以内に立ち退かない場合は警察が来ます」

「セキュリティで警察が来るんだって」
「んなわけねぇーじゃん」


「…あれ、サイレン?事故かな?」
「バカ!!オレたちだよオレたち!!」
「バカヤロウはあんただよ!!!」

岩崎家前に偽のセキュリティー車両が出現。
中から偽の制服を着た大男が出てくる。



「家宅侵入罪で連行する」
「まだはいってねーぞッ!!」
「お兄ちゃん!こんな時まで冗談言わないでッ!!!」

「きゃー!」 「あやのォ!!」

「お兄ちゃん…手、いたいいたい!!」
「てめぇ…あやのを放しやがれ!!」

兄は 偽の制服を着たガードマンが銃を持っている事に気づいた。

「世紀末映画と違って 今どき銃なんて本物の警察が持ってるわけないだろッ!!!」

臆することなく とっさにこめかみを狙って一発殴った。
つぶれ飛ぶ 偽ガードマンのサングラス。
よろめいた相手から綾乃の身を取り返した兄。
心拍が上がる。

「ロボットか?!!」

立ち上がった偽ガードマンの顔を見ると、両目は光る穴があいているだけだった。
大きな両穴の奥で 視覚センサーのダイオードが不気味な輝きを放つ…




~ ネスフォンエレクトロニクス 本社 アクティブフレイム開発局 会議室 ~

「最高顧問、お電話がはいっております。」
「ありがとう。」



「岩崎です。」
「あ、私ですけどー。 警視総監です。」



「先ほど、お宅へ侵入しようとしてた2人組を捕まえたんですよー。」
「まさか、あの(偽お好み焼き屋)さん?
 あれほど社で使える(ソース)はわが社謹製だけだと言っておいたのに…」



「岩崎君はあいかわらず忙しい男だねー。
 君にもとても懐かしい男の子と女の子なんだよー?…わかるよね?」


~ 警視庁如月署前 ~

「はっはっは! 優樹君、いきなりやってくれるね!」
「…すみません」

「いや、ライバル会社の使わした偽セキュリティだった
 本当にすまなかった、ふたりとも」
「でしょ?でしょ? やっぱ見た目よりココロでしょ?」
「きゃーっ!!」(どかっ!と蹴っ飛ばされる妹)

「ふふっ、カーワイイ♪」

「岩崎さん、あのひとは?」
「そうだね、いいタイミングだ、紹介しよう」

「彼女はウィルヘルミナ・カレンズ・フォスター」



「私のボディガード。兼、セクレタリー(秘書)だ」

「今のところ、私と一緒に暮らして色々手伝ってもらってるからー」

「今日から家族だね! 私をウィラって呼んでください」

「…ラ」

「ん?なぁに?」

「ウィラねぇちゃん!」

「はい♪」





~ 岩崎邸 リビング ~



「うわー 何か凄い家ですね!」

「気に入ったかい?」

「そりゃもう!」

「わーっ 見てみてー!こんなにテレビが大きいのーっ!!」

「そろそろ晩御飯にします?」 「あぁ たのむ」



「ところで綾乃さんは今、学生さん?」

「うん、高校2年生だよ」

「(中学生だと思ったんだが…)それじゃ今、いちばん楽しい時だよね?」

「(なんだか悲しい言い方だなぁ)…はい!」

「オレ、ちょっとトイレ行きたいんですけど」

「ウィラ、教えてあげて」
「了解」

「あー、やっぱり逃げたっ」
「ふむ、どういうことかい?」
「お兄ちゃん学校やめちゃったの」
「どうして?」

「専門の学校行ってもつまらなかったんだって。」
「ふむ、なぜかな?」
「彼のほか半数は 機械の参考書 "トルクレンチたちが教えてくれない
 最初の基礎"って本さえ  読んだことない人向けの授業ばかりで、
 実はアルバイトだって言ってる先生の
 言ってる事はオレたちに近いけど、先生も含め
 将来自分のやりたいことがまるで見つけらんない
 ダメ息子用の学校だったんだって」
「最近それがわかって…、いじけちゃった」



「…博士は そんな時に何かいってあげられるのかな?」
「ふむ、 彼らは今 そのまま好きなことやってればいいんだよ」
「え? そうなんだ??」
「幼い時からと 同じように頑張っていればいい」
「そのまま一途にね…」

~ 岩崎邸一階 ガレージ ~

「はー、そばで見ると 凄いわねぇ  なんだろうな、クルマとは違う この存在感…」



「この白いのが 自分で中古を意地で改造してる、
血と汗と涙の愛機  アーク・フレイム 900R 改 = ソードバイアス
黒いヤツは 親父の宝物を、綾乃が勝手に乗ってる ブラック・フレイム 1300 = デモンバイアス」



「こいつら ふだんオレたちは”ソード”と”デモン”って呼んでるよ」

「かっこいい! 綾乃ちゃんも こんなの乗ってきたんだ!!」 (ウィラ、満面の笑み)
「笑うでしょ?あんな小柄で こんなゴツい悪魔にのってるなんて」
「あたしは小柄でデモン君は大きいけど ハンドルに手届けば女の子でもウデしだいなの!
って自分で自慢してるぐらい上手いからムカつく」
「あははっ!」



「今日は思いっきり距離乗ったから  このエンジンきれいにアタリとれてるだろうなって思ってさ
 2台ともバラして フレーム間の2次サージの亀裂とタービンも自分で見るんだよ
 ま、綾乃は まだ怖がって 一人じゃメカはいじれないけどね」

「へぇーっ そこまで自分たちでやるの?? すごいね!」
「まぁねーっ ところでウィラさん バイアス(反重力バイク)とかクルマ好き?」

「私よく 知らないからなぁ バイアスって  だけど この おおきな空飛ぶバイクが
 普通じゃない大きさなのは わかるよわよ? 大型でしょ
 それに、クルマとかふつうのメカは大好なの」

「あの高そーなクルマもフツウ?」
「積んでるコンピューターも 高くてフツウよっ♪」





第二章 「2人の博士がかわした約束」


~ 渡瀬邸地下30m 地下研究室 ~

柱時計の鳴り響く、古い洋館の地下30mにある研究所内部は
広大な広さを持ち かすかな重低音が響く 完全自立のコンピュータールーム…。
そこは 空気清浄機により、少し肌寒いくらいに温度が調節してあり、
複数走る床下隙間に間接的にもれる明かりで 鍾乳洞のような、
どこか懐かしく 神秘的な雰囲気さえ感じる巨大なコンピュータールーム…。
ネスフォンの岩崎博士さえ息をのんだ。



「…おどろいたぞ 渡瀬君。
 君の家の地下に こんな研究施設があるとは思わなかったぞ…。

 しかも 何だ? この大げさなコンピューターは…?」

青暗い光の中に 2人の人影がある。
この空間の主 渡瀬直樹 室長と、 招かれた客 岩崎慎 博士…。

” 初めまして …岩崎博士 ”



柔らかで 澄んだ女性の声が直接脳に響き…彼を魅了した
その声の主は 空間中を埋め尽くしたコンピューター…
つまり 地下研究所の頭脳の声だと 頭の良い彼には すぐに感じることができた…

「お嬢さん あなたの お名前は…? 」

岩崎博士の普段見せない声に 頭脳は 思わず笑った
頭脳は続けた

”岩崎先生…真っ正直は最大の美徳… ですよね…?”

少しだけ驚いた岩崎 フフッと少し間をおいて理解し切りかえす。

「…フラれちゃったかな?  そんな関係なら 僕はこのへんで 失礼するけど…」

センシティブかつ巧妙に渡瀬を置いて帰ろうとする岩崎。
初対面で失礼なことを言った頭脳にあきれつつ、 色気のない彼女を作った
自分を責めるように渡瀬は科学者らしく 岩崎をひきとめる。

「まて… 興味こそ科学者の最大の体力だと思わないか?」



「ウム… 近頃も この会話を盗聴している機関と私は何かあったのかね?」


渡瀬は口元をゆがめ つづけた…

「気づいていたか… その機関は今のオレの力の全て…
 いつでも張り付いていて、あなたにも秘密の国家機密を  全力で守ってるんですよ」

「工科大の…体力、つまり空軍だろう?」

「はい。 …それでも、私はあなたに ほめてもらいたかった。
 いつか、母校の機関を使ってでも、恩返しをしたかったんだ。」

「…フム」



あなたは先生だった。

輝かしい 試験管ベビーである私の生みの親、ネスフォン工科大の…  懐かしいですね?
チームに「美味しいよ?」と紹介されたハンバーグ定食のご飯を
お店に失礼と思いながらも…ストレスからの胃もたれで小盛ライスを半分も食べられなかった時も…
同席したあなたは、 「あ、無理に食べなくていいんだよ?」と、  目を細めて笑ってくれました


そのあと あなたは、ひとり歯を剥き出しにして押し黙ってましたね?

目を突っ伏して 苦笑しする岩崎…


「では、少数精鋭 全天候型の研究チーム…
あの時… なぜオレを あんな行先不透明なチームに?」

「…わかってはいたんだよ? まるで暴走機関車のような
 君の 何かに追われるような 危なっかしい情熱と
 あのとき、ハンバーグについてきたライスを 半分も食べた
 私のえらんだ 「渡瀬君」というエンジンタイプのタフさをね?」

「その甲斐あって 学院の研究結果は 大学組織にとって巨額の礎となった
 だから、今でも私は 影から君を見ていたし、  全ての力を貸してもいいのだからね?」
2人は かたい握手をし 震えるほど素晴らしい笑顔を見せた。


” 私の知らない笑顔は何年ぶりでしょうか… ”


この青い空間の頭脳は雄弁に語りだした…

” 親友ふたりの裸の心のお礼に… 私の本当の姿を見せるわ… ”

” ファイアワークスバイアス 信号増幅 ”
” …システム ローザ、  起動… ”



” 「プライマリー・キー」の持ち主、渡瀬 直樹 博士の願いにより
  これより、岩崎 慎 博士を「セカンダリー・キー」の持ち主と認めます ”






「時間はもう… 戻せない」

「 …実は 小型化した頭脳は出来ている」
「ここに2つある… ひとつ 受け取れ ”ARTEMIS(アルテミス)”だ」


岩崎博士の 震える両手にのる それを カバンにつめ 厳重に鍵をかけ
無言で深々と渡瀬に頭を下げた
岩崎はきびすを返し 去っていく…
盗聴先に…恨みにも似た眼光を含ませて…


あれから一年後… 渡瀬博士は 私に「作品」を見せることなく消えた…
ライバルの関連企業もろとも死んだと 報告があった…
酩酊状態とあったが 意識ははっきりしていた
彼の身柄を…この国のいしずえとも言える頭脳を
私は持てる55パーセントの力をかなぐり捨てて 奪い返した
結局 思わぬことに 関連企業の体力は私のものとなった
今は 岩崎邸内部に その象徴と 体力があるのみ
いっぽう 渡瀬博士は 安全な場所で 療養中だ…

そのことを いまさらとやかく言う気はない…

ただ お前は一体 頭脳、”ARTEMIS(アルテミス)”に
どんな「体」をあたえ 「何」をつくろうとしていたのだ 我が息子…直樹。









第三章 「優しい ひかりに抱かれて」


~ その夜、 シャワールーム ~

優樹と歳の差を感じさせずに楽しく話せたウィラは、
「まだ早いけど おやすみ」 と言いのこして 自室にもどって行った。



「ゆーき君って なんか楽しい子だなぁ…」

「あ…あははっ! 私はあんなコによわいのか♪」



シャワーの後、 つまさきのネイルの色を落としながら
ウィラは優樹のことを 思い出していた。 時計を見ると十一時をまわっている…。



~ 岩崎邸 ガレージ ~

(まだ ガンバってたんだ…) ガレージのカゲから遠目に しかめっつらの優樹を見ているウィラ
(一生懸命なんだね…) 優樹の後ろから ウィラは声をかける

手には夜食の 黒豚にんにくチャーハン が

「おなかへったでしょ? これ 食べなよっ」
「うぉ!ありがとォ ちょうど腹減ってたんだァ」

肉いっぱいのチャーハンをがっつく優樹 ウィラはニコニコである
「うめぇっっ!!!」
「もっとバイクの話とかしてよ」

「あぁ えっとね バイクって飛ばすのも面白いけど…」
(チャーハンをとばしながら しゃべっている)
「ゆっくり飛ばすのも楽しいんだ!!」

「むこうから走ってくるバイクが 挨拶代わりにピースするから
それにピースして かえしたりさ
行く先々で デカいバイクとめて一休みしていると 若いヤツから としとったヤツまで
男女カンケーなしに、 いつのまにか近くでじーっと見てたりするし」

「オレは 世界中どこの人種でも 話す意味わかって、いいヤツだったら好きだけどさー」

「それで それで?」

「あと、ありがちだけど幼少期に異国で育って、細かいニュアンスの日本語がまだニガテな
まだ、言語OS違いのおばちゃんまで、それでもやっぱバイク好きだから
笑顔で一生懸命に言葉を探して 話しかけてきてくれたり…」

「ふーん?、今の私みたいな?」



「えっ? ウィラに言ったんじゃないよ? いや、マジで!」
「あははっ!  …あ! キミ、チャーハンのお肉も全開でとんでるよ?」
「ん? あ!もったいね!」
「かたずけるよ」
「いーって!後でオレが掃除すっから!」

突然 食器を片づける優樹の背中を ウィラは抱きしめる。

「ウィラ…どうしたの?」
「もう… キミは ホントに育ちがいいんだから!」

優樹は前を向いたまま、
背中に感じる彼女の温かさと、
大人っぽい髪の香りに驚いている…。

「ごめんね…? でも もう少しこのまま…」
「え”! いや、あの、なんちゅーか こりゃーちょっとヤバくないかい?」

彼は その時初めてウィラの涙に気づいた…

「何も言わないで お願い… あたたかい今、この背中がとても嬉しいの…」

ガレージの壁際に据えてあるラヴソファーに
ふたり横たわり 優樹に抱きしめられる中、 ふと ウィラは岩崎の顔を思い出した。
一瞬であったが その影が、「うっすらと浮かべた涙の理由」だった。
窓際の月明かりの中、 ふたりのシーンがフェードアウトしていく…。



~ 岩崎邸 岩崎の書斎 ~

こちらも楽しそうに 誰かとリビングで話しているようだった

小さなガラステーブルの上の バーボンの入った琥珀のグラスが
おどけて話す岩崎を 酔わせているんだろう


女性と一緒のようだが…
彼は嬉しそうに 話に夢中だ


伏目がちに微笑む岩崎


「私にも 家族ができたよ」

「生きているうちは もうそんなこともないだろうと
 思っていたが…」

「まぁ、いきなり そんなことを言うのもなんだが
 思えば 君のせいで 私はずっと
 ひとり身のままだったんだよ?」


相手にすすめたグラスの氷が 音をたて 彼は苦笑いをした


彼の目の前には セピア色の写真たてが一つ
金色のオルゴールつきだ



「あれから17年もたってしまったが 
  私には、今でも昨日の事のように思えるんだ…」



「 君が… 死んだ日のことを… 」



悲愴なメロディーは鳴りやまない…















~ 綾乃の自室 ~


綾乃は 午前2時をまわった 何もない部屋で
ひとり 考え事をしていた…

…今日から この街が わたしの街…
とても 大きい街…

昼間 普通の日だっていうのに 人 多かったなぁ…
あの人たち いつも何してるんだろう…

わたし… この街で生きていけるかな…
ちょっと 自信ないけど… この家があれば… あんしんだね



博士… ウィラさん… そして、お兄ちゃん…

みんな楽しいひとたち…
新しい 私の家族…



お父さんが そばにいなくても… 生きてゆけるよね…







~ 岩崎の書斎 ~

几帳面な彼女は明朝のスケジュールを報告しに
岩崎の書斎をノックする…

ドアをあけると 柔らかな空間のスポットライトに包まれ
のみつぶれた博士が イスに腰掛け 眠っていた…


ウィラは 博士に ソファにあった 古びたフェイクの毛布をかけてやる



一冊の日記が、暖炉の中で燃えている…
タイトルは、「エンディングノート」

幾度となく書き変えられ すっかり古びてしまった日記は
この夜…約20年の役目を終え、新しい家族を持った嬉しさ
から深く酔った岩崎自身の手により燃やされてしまった…

燃え上がり 炎となっていく… 輝かしい足跡と
彼の果てしない夢… 黄金の地、エル・グランド…

そう…、燃え上がる20年の 都市改変の仕事は、
彼の いのち そのものだった…

この世に生きる全ての人々に残酷につきつけられる
限られた、「時間」とう厳しさを思いつつ
せめて、この町に住む若者たちが、様々な悲しみや憎しみを極限まで捨てさり
つねに 輝きながら夢を追い続けられるように、
岩崎は 歯を剥き出しにしつつ 情熱のこぶしを自分のデスクに叩きつけた



そして、完成した街の 雄々しき姿
彼の想いに悔いはない…

「そして… やっとまた 僕にも 家族が…」

 安らかな笑みを口元にたたえ眠る 傷だらけの紳士…






ふとテーブルの上に目をやると セピア色の 古びた写真…

「あとは…この人を忘れられないかぎり
 あなたは もう 二度と
  今の私を愛してはくれないのよね…?」

寂しそうにつぶやくウィラ



「慎… この人と何が違うの?」

「私は 今もここに生きて、 そばにいるのに…ね…?」



そこには、古びた 笑顔のウィラの写真があった…





第四章 「 スタンドバイミー、エンジェル 」


~ 岩崎邸 ~

 ぐつぐつカレーとカレーを作る綾乃

「あ!紅茶がない!!!!」
「お兄ちゃん ”カレーの後には絶対チャイ!”ってうっさいのに!!!」
「あーくそっ まだ夜かぁ…  あ!!ここは都会だった うし!買ってこよう💛」

ガシュガシュ!!!ズバンッ!!!!
真っ黒い煙を吐くデモン 何故かご機嫌ナナメだ…




~ 優樹の部屋 ~

「おにいちゃん大変! 私のデモン 調子悪いよ?」
「ん?」「なぁに…」
「お取り込み中ごめん!なんか バッテリーが安定しないの」
「ありゃりゃ」
「そいで ちょっとコンビニ行きたいから ソードくん貸して?」
「んー? だめだよ」
「ケチ!」


それから1時間後…


「げ!!!ソードがない!!」

遠くで かすかな爆発音…

”緊急事態!!特別救急隊 コード BR-0017ユウキ、 聞こえますか?”
「あぁ??! やべぇ!!  あやのォオ!!!!」


「優樹君!!!」「あやのが事故った!!!」
「わかってる!!!」
「私が車を出す!!!大丈夫だ!!」





ソードバイアスのメインフレームが叩き折れ エンジンが燃え上っている…


「あやの!!!!…」

「…嘘だろ…??」

綾乃の心肺は停止 意識もなく ぐったりしている
大急ぎでAEDの準備に取り掛かり、兄の気つけのために大声で叫ぶ岩崎
「髪が若干焼けただけだ!!大丈夫!!!」」
「過去何度もやった蘇生だ 今回も失敗しないから!!!」
「はい!!!」
はだけたTシャツの上からパッドを貼り付ける岩崎
綾乃の両足を押さえつける優樹
「優樹君!離れて!!!」
そう叫ぶと同時にAEDがスタートする

「ドッ」

「ドッ」

「ドッ!」

「ピー…」

「心拍フラット!!!!」
「クソッ!!もう一回!!!!」





~ 岩崎邸 ~

「8時のニュースです」

「今日 AM 3時45分 渡瀬綾乃さん17歳が 世界的に珍しい ”バイアス事故” による集中治療の為 ICUへ…」

綾乃の作った あたたかいカレーを食べながら TVに目をやる岩崎、ウィラ、優樹の三人。

「あやのさんの作ったカレー、おいしいわね…」



「まるでお通夜だな」苦笑する岩崎



ウィラ 「大丈夫よ 無事 帰ってくるから 脳に外傷はなかったって話だから…」
岩崎 「管制側の重力制御システムにかなり金をかけたウィルスが混入したそうだ」

優樹 「ごちそうさま…」




夕食を取り終えたあと 一人 ガレージのすみに佇む優樹
綾乃の乗るはずだった病み上がりの悪魔の鈍く光るオーナメントを見つめる… 



「デモンの守護天使よ…おまえだったらアイツを守れたんだろうな…」

壁にもたれ、横たわるデモンのすすけたオーナメントを横目に、
天にタバコの煙を吐く優樹





~ 市民病院 ~





病室のクリーニングの行き届いた真っ白いシーツのベッド…
そこに 片足をギブスで固定し眠っている綾乃



あーあいたたたたた… こんなに若いみそらで死ぬわきゃないって …いてててて
なんか風邪ひいたときみたいに頭がぼーっとするし、体はどうなってるんだろう 毛布めくれないよ 怖くて
足がパンパンだぁ… うぅー なにこれ… 点滴ぃ?…





「正体判明!」
「アルテミスを搭載しています!」
「空軍 渡瀬直樹小尉の意向により 市民病院から渡瀬綾乃を緊急搬送!!!」
「バックアッププログラム始動します」

「渡瀬博士、渡瀬綾乃氏へ説明を許可する」



救急搬送 空軍基地「GREEN ROPE」へ
「試作サイボーグボディ バックアッププログラム」再始動!





…3カ月後

~ 岩崎邸 ~

「にゃはははははははっ!!!」
「何コレ?」(ゆ)
「入院中の冒険記録写真~!!!」

「被写体はいい男ばっかじゃん…」(ウィ)
「にゃははははははははははっ!!!」
「あとは大盛りごはんの給食とか、チーズパンとか、ロマンチックな窓からの駐車場ばっかりねー?」
「あまりに暇すぎるから、他は少年コミックスの続きと毎朝の新聞と牛乳が楽しみだったよ。
 あと、給食にもあきたから、博士が持ってきた7色セット小袋ふりかけの味比べ。」
「頭打って入院したけど 逆に頭良くなったと言いたいのね?」(ウィ)
「そうそう!特に美味しかった小魚味ふりかけのおかげです💛」
「ふふっ!良くなったのは骨よ?しかもキミに【生活の骨(コツ)】がタップリ入ったわ。」(ウィ)

「イワシとサンマは塩ぬって焼いて、アカウオとかパンガシウスは塩コショウと片栗粉ふって、
 表面カリカリのムニエルに♪」

「月刊 オカズマガジン!」(3人爆笑)

「あ、新聞のチラシでこんなの見たよ?」
「ロマンティックな2人でいってきなよ?あたしはいいからさー」
「なになに? ご試着お写真ブライダルフェア?」





~ 市内の高級ホテル ~


…と、いうことで 市内でひときわ大きな ここ 「ファーラウェイ・ホテル」では
結婚式の前にドレスを試着していただいた方に
もれなく写真を一枚プレゼントします!ってふれこみで
ブライダルフェアを開催していた

「行き遅れた秋の ウェディングドレス試着キャンペーン かぁ」
「うっわーっ すっごいねーっ」

「このロビー 天井6段ぶち抜きだ」
「キラキラしてる」
「首が痛い」


「で 試着会は13階だっけ?」
「そーだよ 小ホールって書いてあったよ!☆」

(おぉー よっぽど楽しみだったんだなぁ ホントありがとよ! あやのっ♪)





~ 岩崎邸 ~


「はぁー 兄妹かぁ…
事故であたま打ったショックと、搬送先の病院で会った 空軍大尉のお父さんからの説明で
思いだしちゃったんだよね…
わたしの中には、いくつかの人工的につくられたイベントの、大きな思い出しかないって…!」



「ホントの、楽しかった思い出…
          写真一枚でも…大切にしてね」

綾乃は机につっぷしたまま泣いた。





~ ファーラウェイ・ホテル ~


13階 多目的小ホール
ウエディングドレスが 部屋中に飾ってある


「わぁ…」「すっげぇやぁ…」
ふたりの目はまんまるにひらかれ
その 真っ白なドレスたちにくぎづけになった


ホール入口に立ちすくんでいる 原色の2人は
あからさまに目立ったようで スタッフが声をかけるまで
しばらく固まっていた…


~ 試着室前 ~

「あら!こんにちわ!」
「どうもっ!!こんにちわ!」(2人ともニッコニコである)
「ご試着に来られたのでしょう? せっかくだから どうぞ」
「あ はい!」(ウィラ 待ってましたとばかりに即答)


「では 男性の方からいきましょう!」
「え? オ、オレも着るんですか?」
「はい、もちろんです
そうしたら ウェディング姿のおふたりの姿を
特設セットでお写真にとって
それをその場で 1枚サービスいたしましょう!」
「おぉおおおー!!超かっこつけた豪華コスプレ!!!」
「優樹くん!!はっちゃけて頑張るのよっ!!!」(ウィラは目がイッてる)

「きっと似合われますよっ ♪」





5分後…



「またせたな!」

「それじゃイキますわよぉ! それっ!!」

左右のカーテンがばっとひらく

「ぷあはははははははははははは!!」
「笑うな泣くな怒るな!!オレも恥ずかしいんだから!!!」
「あら ぷぷ 似合われてますよ!マガオになってくださいなっ」



「こう?」



「ぎゃはははははははっははははっははは!!!!!」
「あーうっせぇー☆」

「そ! それじゃ お嬢さんのばんですねっ」
「ゲ! そーだった私のばん? やっぱりやめよう?」

(ちらりと優樹を見る)

「笑ってやるから さっさと行けっ!」(ニヤッとひきつってる)




5分後…




「おっそいなぁ… さすがフルドレスアップ」

「そうですね… 楽しみですね?」


「あ!そうだ!!」
「あの、今日あの子の誕生日なんです!」
「まぁ!」
「それでですね? 今!!車の中からプレゼントとってきていいですか?」
「アナタなかなかカッコイイこと考えますね! いってらっしゃい♪」
「おうっ!!」(どたどたとタキシードのスソを持って すっ飛んでいく)

「誕生日に ウエディングドレスとプレゼント… 新婦さん 幸せですわね」





「やっぱり はずかしいよっ!」

「おわったみたいですね」

そして 左右のカーテンがすーっとひらく

優樹と 係の人は ぽかんとしている
まわりの人々も ふりかえって見ている













「どう?」(ウィラは少しはにかみながら言った)

「あ… えと… その… うまくいえないけど 綺麗を… とおりこしてる…

「まったまたーっ☆」

「いや! 本当だって 絶対!! ムチャクチャ綺麗だよっ!!!」



「…ありがとぅ」



「あ! あのさ ウィラ? いきなりだけど 誕生日プレゼント 今 渡そうと思うんだ」
「え? なに?」


優樹の人差し指から 指輪が抜き取られ ウィラの左手の薬指を通した…
「私の誕生石 青いサファイア…」

優樹は 優しくわらった
まわりのひとも ほほえんでいる

「誓うよ」

  「いつかきっと、このオレがその石を、光り輝くダイヤモンドに変えてみせるから」

  「うん…!!」

一呼吸おいて ウィラは優樹に くちづけた








第五章 「きみの 永き生涯のために」


花束を持った綾乃と岩崎は 郊外の夕暮れの森の中を歩いていた

「ここだ…」

こうべをたれる岩崎


大きな石碑の長い影が
秋の夕暮れを告げ… 静かに横たわっていた


「どなたのお墓なんですか?」

「ここに彫ってあるよ」

「!?? …ウィラ・カレンズ・フォスター…??」

「…妻だったんだよ…」





「私は17年前…
 あの娘を…ウィラを亡くした」

「当時 私は、医者だった」

「だが、彼女を運んだ時には 
 すでに、手の施しようもない状態だったんだ…」





~ 中央病院 病室 回想… ~


「まことに 残念ですが… 先生…」
「そのカルテの患者は  あなたの奥様なんです」

窓に立つ岩崎慎医師の妻から 驚きの声。


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「…ねぇ 先生… 医者の不養生は情けなすぎ!
      …って、 一度あなたと話したのおぼえてる?」

「!!…」

「自分の苦しむ姿見せるくらいなら
     死んだほうがマシだって…、
           私、 昔 言ったよね?」

「あれ…、 ウソだよ…。」



「ホントはこうやって、あなたと少しでも わらってすごしたい。 今は そう思ってるから…。」

 だけど…、鏡に映つる、末期の苦しみで 日々やつれた自分の姿を…。



『 未来でも こんなにいい笑顔でごはんを食べている、
  健康なふたりの医者のあいだに、としの差なんてあるのかい? 』



  はにかむあなたのプロポーズのことばを信じて ちゃんと3度のあたたかいごはんを食べていたのに…

  ゆっくり、かみしめて… 今日まで自分に磨きをかけてきたけど、
  もう…、出されたうちの少ししか たべられなくなりました。

  これ以上は、心から いい笑顔を見せる自信がありません…

  だけど、あなたは一人でも、いろんなバランスを考え、 元気でいてください。

  どうか、病気という悪魔に負けないで。


” さようなら。  ごめんね… 先生…。  私は、神様のもとへ行きます ”






「ぅぅわぁあああ!バカなぁぁぁあああああ!!!!」



「私の目に刻まれた、
 そこに残された、のぼったばかりの彼女の最後のほほえみは、
 どんなに時が過ぎ去っても
 消え失せることはなかった…。」


「…もしも 何があっても死ぬなと 伝えられる言葉が あったなら。」

「…彼女がわらってうなずく 言葉があったなら。」

「土砂降りの真夜中の雨の中、一晩中泣いた!!

  なぜ!彼女は私の たどたどしい一度きりのプロポーズしか憶えてなかったのか!!? 

   なぜ!私はもっと優しい言葉をかけられなかったのか!!?

    なぜ、どこまでも声を枯らし、最後までのぼりゆく彼女に聞こえるようにまで叫べなかったんだ!!?」


…私が…燃え上がるほど愚かで…傲慢だったと…。


「あれから17年…何の意味もなく過ぎていき、とうとう70代となってしまった私は
 彼女の本国にある一族の墓石の前に立ち、
 宝石のような思い出の中、失ってしまいたい 若さゆえの嘘を数え、
 微笑みも、悲しみも、とめどなく溢れる自己愛からの 枯れてしまった癒しの涙も、忘れなければいけないと思った…

「何度も振り向き…そこに君がいないと分かっていながら…

「過去何度も、その幻想に耐えられずひざまずき、そう なげいてきたはずなのに… 」







「気が付けば 私は 老いた家庭用ロボットの代替品がほしくなり、なにげなく没頭したサイボーグボディの研究以外、
何もとりえのない男となっていた…。」





「そんな時、 私の教え子渡瀬博士が、
 意思を持つニューロコンピューター
 ” ローザ ” を完成させていた…。」



「しかも、その時に持たされた小箱、” アルテミス ”は、
手のひらにのるほど小さく、人の脳の代替品と呼べるものであり、
すべてを 忘れたつもりだった私の心は、再燃した。」







” あの子に もう一度、逢いたい… ”





「私はウィラ カレンズ フォスターを
 よみがえらせようと思った…」

「彼女の外見から 性格、しぐさまで
 生前の全ての組成データを模倣し
 そして、その結果産まれた機械人形…」



「それが…今、この世に存在する
 ウィラ カレンズ フォスターなのだ」





”記憶の組成データ照合 及び エーテルの確認…”




渡瀬博士から受け取った頭脳 「アルテミス」 使い
17年前に死んだ「ウィルヘルミナ」の美しい人格を すべて
 埋め込んだ 絡繰り人形…


様々な思い出がよみがえり 嬉しさのあまり
今にも体中に接続された補助動力コードを外しそうな 動く骸骨


「今から 外装をつけるよ
 それまで 鏡は ご法度だ…」

「さぁ…、 こっちへ来るんだ…!」


骨格だけの「彼女」を抱き寄せた

「…どうして こんなことに? …あなたは医者だったはず…」
彼女のお気に入りの思い出の毛布をまとい 博士に抱かれながら彼女は尋ねる

「記憶の整合性がとれていないのか… わかった 最期のデータがないんだね? 教えてあげるよ…」


「君は自殺してしまった ウィラ・カレンズ・フォスターなんだ…」
「か!! 鏡を貸してっ!!! はやく!!!!!!!!」


「…なんという…こと…」

ウィルヘルミナの手鏡は まるで骸骨のような姿の彼女の涙を受けた



「愛してるわ 慎… だから……」

彼は ふるえるきゃしゃなからだを強く抱きしめ こう言った



「きみの 永き生涯のために…  どうか この愛が 本当でありますように…」





SPIRIT BIAS. 上巻、 完。

森澤哲也ⒸTetsuya Morisawa.




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